このコラムは、2006-2008年にAQUENTのサイトにて書かせていただいたものです。サイトのコンテンツ整理にあたり、こちらに転載しています。目次はこちら


第9回「提案力とプレゼン力(2)」

前回、「ビジネスパーソンに必要な能力は、提案力とプレゼン力」として、提案力についてお話ししました。
提案は、よいアイデアを出すだけでなく、伝える相手との関係を考慮したり、また、ロジックと段取りを踏むことが重要です。今回の「プレゼン力」は、その伝え方にフォーカスしてみます。

イラスト:佐藤孝行(ロゴ・アンド・ウェブ

そもそも「プレゼン」とは?

プレゼンということばが浸透したのは、ここ5-6年くらいでしょうか。それまでプレゼン(presentation)ということばは一般的には使われていませんでした。そのことからも想像できるように「プレゼン」という概念は、そもそも日本にはありません。

それはさておき、「プレゼン」とは何を指すのでしょうか? 
「10人くらいの人数を前に、薄暗い会議室で、PowerPointなどのスライドを使いながら話す」、そんな感じをイメージする方が多いと思います。

カタチだけを見ると「発表」とも言い換えられますが、ただ、伝えるだけの「説明」や「スピーチ」とは異なります。といっても、どこか強引なところが残る「説得」とも異なります。

聞いた人が「協力するよ」「その商品を買いますよ」「一緒にやりましょう」と、自主的に了解することがプレゼンの目的といえるでしょう。そういう意味では、対象人数が1人だけのこともありますし、薄暗い会議室出行う必要もありませんし、そもそもパソコンすらある必要はないのです。
形式にとらわれず、目的を意識すること。プレゼンを行う上で忘れてはならない点です。

「パワポ地獄」(PowerPoint Hell)

「パワポ地獄」ということばを聞いたことがありますか?
英語にも「PowerPoint Hell」という表現がありますが、プレゼンを受ける側からすると、紙芝居形式のスライドを1日に何本も見せられるのは苦痛でしかないことを指しています。洋の東西を問わず、同じような概念があるのは興味深いですね。

もちろん、悪いのはPowerPointではありません。たとえば、Keynote(アップルのiWorkに入っている有償のアプリケーション)など、ほかのツールで作って同じです。多くのプレゼンター(「プレゼンする人」)は、準備段階で資料作りに没頭してしまうことが多く、また、プレゼン時にもスクリーンを見ながら発表し、また、「聞き手」もプレゼンターではなく、スクリーンを見っぱなしであることが多いという状況があります。

おもしろみのないスライドを見せられるのは退屈以外の何者でもありませんが、それ以前に、主役がプレゼンターでなくスライドになってしまっては、プレゼンが退屈になるだけでなく、プレゼンの成功はありえません。

ロジックを見極め、簡潔に

「たくさんのスライドを作ること」「ページ数の多い配布資料を用意すること」「長いプレゼンを行うこと」… これらはプレゼンの成功の必須条件ではありません。

それどころか、プレゼンを承認するキーマン(経営者などの意志決定者)の多くは、より少ない時間でのプレゼンを欲します。エレベータに居合わせた20-30秒で即決させる「エレベータ・ピッチ」ということばがありますが、極力短い時間で意志決定させることこそ究極のプレゼンです。

この「エレベータ・ピッチ」は極端な例ですが、動機やメリットなどの大きな流れ(ロジック)を意識し、それを伝えることが重要です。プレゼンのスライド資料はあくまでも材料のひとつでしかありません。ロジックがしっかりしていれば、一言一句まで細かくセリフを決めておく必要はありませんし、時間配分の再構成も難しくありません。

補足:「エレベータ・ピッチ」は、「エレベーター・ステートメント」「30秒ステートメント」のように呼ばれることもあります。参照:『コンサルタントの「質問力」』(著:野口吉昭)

プロット、シナリオ、台本

ロジックを作る上で必要なのが「プロット」です。「シナリオ」「台本」と呼んでもよいでしょう。時間と労力を注ぐべきは、「どんな内容をどんな順番で話すか、また、どのような時間配分で話すか」といった設計です。

私自身が過去にそうであったように、まわりのプレゼンターを見ると、いきなりスライドを作り込み始める人が少なくないようです。デザインの初期段階でのメモ/ラフスケッチにあたるプロット作りは欠かせません。

「プロット」を作成したら、第三者に繰り返し説明することで流れをブラッシュアップします。相手がいない場合には、一人で行ってもよいのですが、この際、「こうですよね、そしてこうですね、そして…」と、声に出してこの作業を行うとよいでしょう。プレゼンテーションが、コミュニケーションのひとつのカタチであることを意識し、自然な流れであるかを吟味します。その際、「これを説明するには円グラフが欲しいな」とか「遷移図のチャートを入れたい」のような検討を行います。

プロットの段階で第三者の意見を聞いてブラッシュアップすれば、作り込んだスライドがムダになることもありませんし、「チカラのかけどころ」に適切に時間をかけることにもつながります。全体を俯瞰するプロットを作成することにより、全体の作業時間も短縮できると私は考えます。

突き詰めれば、プレゼンとは対人スキル

自分がプレゼンされる側になったとき、「わからない用語が多くて話している内容がよくわからない」「すでに知っていることばかり話していて、なかなか本題にたどり着かない」といった経験をされたことがある方は少なくないでしょう。プレゼンを行う際、忘れてはならないのが「聞き手」の前提知識や意識レベルです。

重要なのは「共感を覚えてもらうこと」、それ以前に、まずは「聞こう、と思ってもらえること」。

プレゼンが、聞き手のコミュニケーションのひとつのカタチであることを考えれば、相手に合わせて話の進め方やトークを変えるのは、ごく自然なことです。

まとめ

今回のコラムは、あえてテクニック的なところには触れずに進めてみました。

重要なのは「相手に動いてもらうこと」。
これを実現するには、まず、自分の立ち位置を明確にて論理的な提案を行うこと。このとき、相手のレベルやムードによって柔軟性を持たせることは必須条件です。

プレゼンに使うスライドや配布資料などは二の次。もちろん、最低限のレベルはクリアする必要がありますが、本末転倒にならないようにしましょう。

補足:

著者

画像:『Dreamweaverプロフェッショナル・スタイル』表紙画像鷹野雅弘(株式会社スイッチ

写真:鷹野雅弘(著者)Webサイトの構築やコンサルティングを行う傍ら、WebやDTPに関するトレーニングや執筆活動を行う。

できるクリエーターFlash独習ナビ』、『Illustrator CS2完全制覇』など、10冊以上の著書を持つ。

メールマガジン「DreamweaverでWeb標準」を発行。 近著は『できるクリエーターDreamweaver独習ナビ』(インプレス)『Adobe CS3 Web Premium Essential Book』(毎日コミュニケーションズ)、『Dreamweaverプロフェッショナル・スタイル[CS3対応]』(共著)の企画・編集。
『CSS Nite』を主催。